Pickup(相続関係)その2

    
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遺産分割前の預貯金の払い戻し制度について

 
 
1.預貯金の払い戻し制度について(2019年7月1日施行)
 

■条文■民法 第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを承継したものとみなす

 ■預貯金の扱い(法改正までの経緯)■
債権というと難しい言い方かもしれませんので、このページでは「お金を請求できる権利」と簡単に理解して頂けるとよいかと思います。
 
そもそも債権の相続には、可分債権と不可分債権があり、可分債権は当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を承継し(最判昭29.4.8)、不可分債権は、共同相続人に不可分的に帰属し、各相続人は、総債権者の為に全部の履行請求ができ、返済を受領できる(民法 第428条)とされていました。
 
預貯金債権(いわゆる銀行預金・郵便貯金など)は、可分債権と想定してしまいがちですが、判例(最大決平28.12.19)により、「共同相続された普通預貯金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と明確に判断され、金融機関においても、被相続人の預貯金の払い戻しには、遺産分割協議書などが必要書類とされていました。
 
また、金銭(いわゆるタンス預金)の相続は、「不動産や動産と同様に各相続人は、相続分に応じて分割された額を当然に承継しない」(最判平4.4.10)と判断され、こちらも遺産分割協議などの対象となります。
 
しかしながら、今回の法改正により、遺産分割前であっても、一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。
 
■遺産分割前に払い戻しできる額■
単独で払い戻しできる額=相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×1/3×当該払い戻しを行う共同相続人の法定相続分(家庭裁判所の手続きは不要となります)
ただし、「法務省令で定める額」が限度となります。
(平成30年法務省令第29号)⇒150万円が限度(※金融機関ごとに)
例 預金1,200万円 相続人 妻と子1人の計算 
  妻・・・法定相続分600万円×1/3=200万円ですが上限の150万円まで
例 預金900万円 相続人 妻、子2人の計算
  妻・・・法定相続分450万円×1/3=150万円
例 預金600万円 相続人 子2人の計算
  子・・・法定相続分300万円×1/3=100万円
 
■遺産分割前に上記の金額より多く払い戻すには■
上記民法第909条の2の手続きには、金額幅に限度が設けられていますが、より多額の資金需要があった場合は、家事事件手続法第200条第3項に規定される仮分割の保全処分の方法が考えられますが、以下の要件を満たす必要があります。
①遺産分割の調停・審判について家庭裁判所に申し立てられていること
②相続人が、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金を行使する(払い戻す)必要があること
③相続人が上記の事情により、権利行使を申し立てたこと
④他の相続人らの利益を害さないこと
 

 

2.遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(2019年7月1日施行)
 

■条文■民法 第906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の1人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 ■遺産分割前の使い込みがあった場合■
 従来(法改正前)であれば、遺産の分割前に共同相続人の一人が遺産を使い込んでしまったような場合、遺産分割時にその使い込んだ部分を遺産としてみなして計算するのではなく、使い込んだ共同相続人に対して訴えを起こす(不法行為に基づく損害賠償請求)などの対応がとられていました。
 
預貯金に関しては、通常金融機関で口座を持っている方が死亡すると、その口座は凍結され、入出金はできなくなります。
また、凍結されていない場合は、金融機関に死亡した旨を伝え、凍結する必要があります。その後、仮払いの手続きや遺産分割協議により引き出すことができるようになります。
しかしながら、何らの連絡もせずに、ATMで引き出しを行うことも懸念されていました。
 
法改正により、遺産分割前に使い込みがあった場合でも、その処分された財産を遺産とみなし、遺産分割時に計算することも可能となりました。
(使い込んだ共同相続人についての同意は不要)
つまり、わざわざ費用や時間をかけて訴えをおこさなくても、遺産分割協議で解決することが可能となったと考えられます。

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